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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)1370号 判決 1960年8月23日

原告 佐久間保治

当事者参加人 合資会社大成社 外一名

被告 村岡佳春

主文

被告から原告に対する千葉地方法務局所属公証人鈴木育仙作成昭和三二年第二六〇四号債務弁済契約公正証書に基く強制執行はこれを許さない。

参加人等の参加申出はいずれもこれを却下する。

訴訟費用中原被告間に生じた費用は被告の負担とし、参加によつて生じた費用は参加人等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項並びに訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、被告は原告に対する主文第一項掲記の公正証書の執行力ある正本に基く強制執行として、昭和三三年三月七日東京地方裁判所に対し、原告所有に係る別紙目録記載の不動産に対し競売申立をなし、同裁判所は同年(ヌ)第一四九号を以て競売開始決定をなした。右公正証書によれば、被告は昭和三二年六月一〇日その所有に係る神奈川県足柄下部宮城野字強羅一三〇〇番の一一七宅地四九〇坪を代金一二〇万円で原告売渡し、その所有権移転登記を完了したこと、原告は被告に対し右代金を昭和三二年七月を第一回として、爾後毎月末日限り金一〇万円宛一二回に分割し、昭和三三年六月末日限り完済すること、原告が右割賦金を期日に支払わず、また期限の利益を失つた場合は年三割の損害金を支払うこと、原告が他の債務により仮差押、仮処分もしくは強制執行を受けたとき、または月賦金の支払を一回でも怠つたときは当然期限の利益を失い通知催告を要せず直ちに債務を完済すること、原告が右契約による金銭を完済しないときは直ちに強制執行を受けても異議のないことは約諾した旨の記載がなされている。しかしながら、原告は昭和三五年二月二二日右代金債務のうち金六〇万円を被告に弁済し、被告はその余の債権全額を放棄したので、右公正証書記載の請求権は既に消滅した。よつて、原告は被告に対し、右公正証書の執行力の排除を求めるため本訴に及んだ旨陳述し、参加につき、「参加人等の請求を棄却する。参加費用は参加人等の負担とする。」との判決を求め、参加人等主張の競売手続関係はすべて争わないと補述した外別紙答弁書記載のとおり答弁の事由を陳述した。

被告訴訟代理人は、原告及び参加人等の各請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実はすべてこれを認める、と述べた。

参加人等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。原告及び被告は別紙目録記載の不動産につきなされた東京地方裁判所昭和三三年(ヌ)第一四九号強制競売事件につき参加人等の競売代金支払により始まる競売手続が続行せらるべきことを確認する。原告は参加人等の競売代金支払義務不履行を解除条件として参加人等が昭和三四年九月二二日右不動産の所有権を取得したことを確認する。原告は参加人等の競落代金支払次第右不動産を参加人等に引渡せ。参加による費用は原、被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める旨申立て、別紙「参加申出の理由及び参加訴訟の請求原因」及び「請求原因の追加」記載のとおり参加の理由及び請求原因を陳述した。

理由

一、原告の請求について。

原告主張の請求原因事実は被告の自白するところであつて、右事実によれば、原告の被告に対する本訴請求は理由があるから正当として認容すべきものである。

二、参加人等の参加申出の適否について。

参加人等が本件参加の理由として主張するところは、要するに、参加人等は、東京地方裁判所昭和三二年(ヌ)第一四九号不動産強制競売事件における別紙目録記載の不動産の競落人であるが、同事件の競落許可決定は昭和三四年一二月三〇日確定したので右確定後の基本債権の消滅を理由とする原告の本件請求異議訴訟は許されないのみならず右訴訟はいわゆる馴合訴訟であつて、もし原告が右訴訟において勝訴するときは、強制執行手続が停止または取消されることゝなり、参加人等の権利が害されるというにある。しかしながら元来不動産強制競売における競落人の地位は、債務名義の存在を前提として進められる換価手続の中において、その進展に伴い一定の権利義務を得またはこれを喪うのであるから、手続の進行中競落人としては執行法上許された不服申立の方法によるか、または別訴によつて自己の権利の救済を図ることはできるけれども、競落人が当該強制執行手続の基本たる債務名義の実質関係に直接介入し、当該債務名義の執行力の排除を求める請求異議訴訟に自ら当事者として参加することは許されないというべきである。そこで参加人等の本件参加申出は不適法としてこれを却下することゝする。

三、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 下門祥人)

物件目録

東京都文京区駕籠町三〇番地の六

一、宅地四一坪

同所同番地の六、家屋番号同町六三番の二

一、木造スレート葺二階建事務所一棟

建坪 二一坪七合五勺、二階一四坪

実測 建坪三四坪九勺六才、二階三三坪一合一勺五才、

中二階六坪八合三勺三才

参加申出の理由及参加訴訟の請求原因

一、右不動産強制競売事件の競売物件たる別紙目録記載の不動産は参加人等両名が共同名義をもつて昭和三十四年九月二十一日の競売期日に於て最高価弐百六拾万円也で競売の申出をしたのに対し御庁は翌日競落許可決定をなされた。この裁判につき債務者であつた原告佐久間は不服として即時抗告の申立をしたが棄却せられ右許可決定が確定したのは同年十二月三十日であつた。よつて御庁は昭和三十五年二月十一日競落人等に対し同月弐拾弐日を競落代金の支払期日と指定した納付通知書を発し参加人多田羅は同月十一日、参加人合資会社大成社は同月十四日この送達を受けた。

二、仍而競落人等は右払込指定期日に競落代金を持参し、その納付方を御庁担当書記官に申出たところその係官は「僅か一刻早く債務者が債権者に対し金六〇万円支払い、債権者は残余債権を抛棄する趣旨の本日附債務弁済証書が提出されたので民事訴訟法第五五〇条第四号の規定によりこの競売は停止となつたから競落人より競落代金の納付申出は受理出来ない」と告げられたのである。

三、原告佐久間の代理弁護士は右債務弁済証書提出後直ちに御庁に本件訴訟を提起したものであり、この訴訟目的は本件不動産に対する前記債務名義に基く強制執行不許の裁判を受け、その確定判決によつて本件競売につき競落人の取得した競落許可決定の権利を合法的に取消し、よつてもつて原告をして競落の効果から免かれしめんとしているのは明かである然しながら原告に於て右目的を達するとせば、これによつて参加人の蒙る不利益が多大なものがあり、折角時価よりも安い価額で競落した不動産につき共有権取得が不可能となるから、原、被告間の本件訴訟の結果如何は参加人に対し重大な利害関係を及ぼすので茲に止むなく参加申出をするに至つた次第である。

四、先づこれより参加人は本件訴訟に於ける原告佐久間の請求が法律上許さるべきでなく、当然棄却の運命を免かれ得ない点につき述べる。

本件つき法律上検討を要する問題の中心点は「競落許可決定が既に確定し、競落代金支払期日に競落人はその義務を果さん為代金納付方申出をした一足先に、債務者が弁済証書を御庁に提出した」とて、それだけの事実によつて債務者たる原告が民事訴訟法第五四五条による請求異議訴訟で本件強制競売不許の裁判を求むることが出来るか否かの判断如何にかかつていると思ふ。

五、参加人の見解によれば右は消極的に解すべきもので原告にはそのような権利がないと断ずるものである。

何故に然るかと謂えば競売事件に於いては競落人の地位が第三者の立場におり、債権者、債務者間の契約その他行為によつて既に獲得した裁判効果を容易に奪はれる道理がないからであり、換言せば法律に明文が存するか、法構造上取消、停止を受ることが認めらるる場合ならいざ知らず一旦確定した競落許可決定はそれ自体確定力及び拘束力を有し、濫に之を侵かされない性質のものであることは法秩序の上から見て当然の理であり、民訴第五四五条は其裁判は「判決」なるが故に、容易にこの「決定」を取消すに至らしむる効果を与えて居るとは考えられない。

判決にせよ決定にせよ、こは裁判の形式で「判決」は常に「決定」に優位すべき理がなく明文の存しない以上、決定の拘束力を消滅せしむるが如きことはあり得ない。

私法上当事者間だけの法律関係に於ても右理が考えられるのに、第三者が介入している競売事件に於ては第三者たる競落人の得た権利が容易に債権者債務者から覆されるようでは競売そのものの基礎観念に大動揺を招来する結果となり首肯出来ないこととなる、

之を具体的に云ふと、競落許可決定がまだ確定していない内に、債務者は債務を完済した場合なら民訴第五四五条による請求は認められて然るべきであるが、既に許可決定が確定に至つた後ではその請求を認めてはならぬものと主張するものである

六、右についての判例及び学説について。

右の論点につき従来の判例及び学説を参照すると参加人の右主張の正当性を明かに是認していることを茲に強調し、御庁の御留意を乞ふものである、即ち

(イ)、大審院大正七年五月九日(ク)第八九号民事第二部の決定。

大審院民録二四輯九五四頁

同 民抄録七八巻一八一二〇頁

新判例大系民訴篇第五巻九〇七頁

―――参照

(ロ)、大審院昭和四年(ク)第八二七号同年一〇月十一日民事二部決定

法律新聞三〇八〇号一四頁

新判例大系民訴第五巻九〇八頁の二

―――参照

(ハ)、大審院昭和十二年(オ)第二二一九号昭和十三年四月六日民事四部判決

大審院民事判例集第十七巻六五五頁

新判例大系民訴篇第五巻九〇八頁ノ三七

―――参照

(ニ)、東京地方裁判所昭和三十三年(レ)第三九〇号・昭和三十四年(レ)第三五号三四年十二月廿四日判決

民事第二部(合議制)

裁判所時報第二九七号第四頁より五頁掲載 参照

(ヘ)、前野順一著「新民事訴訟法強制執行手続」第六一〇頁 参照

右の内(イ)及び(ロ)の判例は「不動産強制競売事件に於て競落許可決定言渡と雖もその確定前該競売申立に基く債権及手続費用が完済せられた時はその強制執行は最早許すべきでなく又続行手続をすべきではない」との趣旨となつて居り、又(ハ)の判例は類推解釈によつて同趣旨に解せられる。

次に(ニ)の判例は本件の事実に酷似の事件につき御庁民事第二部が最近示されたもので之は注目に値いする判例と見られて裁判所時報にその理由全文が掲載せられている。

右の判例及び学説と正反対のものは参加人には見当らないから前記参加人の法律上の主張はこれによつても正当なものと確信しているから、本訴訟に於ける原告佐久間の請求は御庁に於て棄却せられ度い旨求めるものである

御庁に於て参加人のこの主張を御採用になるとせば参加訴訟に於ける参加人が求めている請求は正に容認せられて然るべきこと論を俟たない。

七、仮に百歩を譲り前記参加人の法律上の主張を御庁が御採用にならないとするも、原告佐久間の提起に係る本請求異議訴訟なるものは実に典型的とも謂ふべき馴合い訴訟であること明明白々であるから、この観点からするも断じて許されずその請求が認めらるべきでないことを次に述べる。

普通馴合い訴訟といはれているものの本質は外形上では原、被告は対立して抗争しているようになつているが真実は被告の方で原告の欲する結果を希望し、又その結果招来に協力せんとしている場合を指称するが本件原、被告間の訴訟は正にその好個の例であると断言して憚らない

八、然らば何故と云ふと、本競売事件記録上明かである通り競落許可決定確定の頃には被告村岡の申立債権額は概算百七八十万円位になつていたがこの不動産上には商工組合中央金庫なる抵当権者があり、その原告佐久間に対する債権額は概算弐百万円であるから、競落代金弐六〇万円が配当せられる場合、右抵当権者に優先配当せられる金額を控除せば一般債権者への配当金額は約六十万円となるのだが、訴外大槻秀雄なる者から手形上の債権として金参百万円の配当要求手続がなされているのである、勿論原告にはこの外多くの負債があるから、更に配当要求の申出がなされることも十分予想せられていたのに原告佐久間は先月二十二日の前記競落代金支払期日に急遽、債権者たる被告村岡方に代理中田弁護士を急派し金六〇万円を支払い、残額については支払の免除を受けて来た事実は意味深長なものがあり、この時当事者は馴合い訴訟を約したと見るは決して誤つた観察ではないと思ふ。何んとなれば被告村岡が御庁から他日配当を受くるとせばその予想額は約弐十万円乃至弐拾五万円位より入手出来ないのに弐倍余の六十万円を受くると云ふ恩恵を与えられたので債務者たる佐久間に対しその厚意に酬ゆる為残余債権の請求権を抛棄する利益を与えたのは勿論、本件請求異議訴訟につき佐久間に協力援助を約したことは十分に想像せられるのである。この事は右六十万円の授受に当つたのは双方の代理弁護士であつたから右債務弁済証書は如何なる目的、用途に使用せられるかにつき知悉していたことも勿論である。

約言せば双方共々に利益便宜を供し合つているから今後本件請求異議事件につき被告の立場にある村岡は原告佐久間の請求を斥けん為全力を挙げて抗争するようなことは全く予想されず、多分は放任するか、又は請求認諾の態度に出て、以つて原告の訴訟目的達成に協力せんことは十分想像され得るのである故これこそ正に馴れ合い訴訟といはれる所以である。かかる訴訟は裁判所を弄ぶものであるから公益に反するのみならず、因つて以つて競落人たる参加人の正当な権利侵害を企図して為すものだから不法行為と云ふべく断じて容認すべきでないことを茲に強く主張するものである。

請求原因の追加

民事訴訟法第六八六条によれば「競落人は競落を許す決定に因りて不動産の所有権を取得するものとす」と定められているがこれは所有権移転の時期を明かにしたもので、本件について謂えば昭和三十四年九月二十二日競落許可決定がなされたから参加申出人が本件不動産の所有権を取得したのは右決定日であることに異論を挾む余地がないと考える。この点競売法による任意競売事件に於ては競落許可決定の日からではなく競落代金支払の日から所有権を取得する場合とは異なるものである。従つて後に裁判所の職権による所有権移転登記がなされると競落許可決定日に遡つて競落人は何人に対しても所有権の対抗が出来るとの見解は我上告審が一貫して示しているところである。本件は債務者であつた本訴原告は競落代金支払期日に、参加申出人の代金支払直前債務弁済証書を御庁に提出した為民事訴訟法第五五〇条第四号の規定上一応競売手続が停止せられたがこれによつて既に取得した所有権が奪はれる理はないのである、換言せば、参加申出人は競落代金支払の義務を履行しない場合を解除条件として既に実体法上、本競落不動産上の所有権者であるから前所有者たる本訴原告に対しては登記なくともこの権利の主張をすることが出来るのである。

民法第百二十八条によれば「条件附法律行為の各当事者は条件の成否未定の間に於て条件の成就に因り其行為より生ずべき相手方の利益を害することを得ず」との規定は普通条件附権利の不可侵性を明かにしたものと謂はれているが、この精神は本件の如く解除条件の所有権ではあるが既に競落人たる参加人は取得した権利であるから、侵害せらるべき理がないと云ふ前述の主張を裏付ける法的根拠と見ることが出来る。提出済の申出書中に引用した判例及学説も亦既に競落許可決定が確定した後に於ける債務弁済によつて競売手続の進行が妨げられないとの趣旨に解せられる理論の中心も右民法規定に準拠しているものと思料する。この点競売法による競売事件に於ては競落許可決定がたとえ確定しても競落代金支払前債務の完済があれば抵当権そのものが消滅に帰するとの理によつて競落人は競落の権利を失ふに至る場合と相違していることは強制競売は債務名義によつてなされるに反し、任意競売は抵当権なる物権の行使によつてなされるところから生ずる為である。

之を要するに、本件の如く競落許可決定が既に確定した後、而も参加人は競落人として何等義務不履行がない場合本訴原告の債務完済の事由によつての民事訴訟法第五四五条に基く本訴請求は失当であることは明々白々と謂はねばならぬ。

答弁書

参加の理由に対する答弁

本件不動産に対し参加人等が昭和三十四年九月二十一日競落申出をなし(代金二百六十万円)翌二十二日競落許可決定がなされたこと、同年十二月三十日即時抗告が棄却され右競落許可決定が確定し昭和三十五年二月十日競落代金納付の通知が為されたこと右競落代金納付の期限が昭和三十五年二月二十二日と定められたこと、被参加人(原告)が同日被参加人(被告)に対し本件執行債権に対する弁済のため現金六十万円を支払い、その余の執行債権の全額の免除を受けたこと、即日被参加人(原告)がこの弁済証書を執行裁判所に提出し、かつ本訴請求異議の訴を為したことはいずれも認める。

参加人のその余の主張事実は否認する。

参加請求の原因に対する答弁

一、被参加人(原告)の訴状請求の原因第一、二項に記載の次第で本件執行債権は消滅したから、これが弁済証書の提出によつて本件強制執行手続が停止されたこと及び、これが債務名義である請求の趣旨に表示した公正証書に基く強制執行の許されないことはいずれも法律上当然である。

二、参加人は本件不動産に対する強制執行手続において競落許可決定が確定されたのちは執行債権が消滅した場合と雖どもこの消滅によつて債務名義の執行力は左右されないと独断するもので要するに競落代金払込を完了する以前、すなわちこの強制執行手続が完了する以前において競落不動産に対し、競落人の有する所有権は、この競売手続が正当に取消されるときは不可避的に消滅する性質の条件付所有権であることに対する全くの無理解を表明するものという外はない。

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